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【コラム】宮崎壮玄の中国一刀両断 − 第3回「中国のネット社会に集う若者たちの価値観」

· Column

 梅雨の終わりのこの時季、中国の高校生たちが大学入試の結果を手にして喜んだり、悲しんでいることでしょう。中国では「高考(ガオカオ)」と呼ばれる大学入試試験が6月初旬に行われ、月末に結果発表がありました。正式名称は「全国普通高等学校招生入学考試」といって、毎年1000万人近くの学生がこの試験に運命を左右されるのです。

 鄧小平の「先富論」によって、一旦社会主義的な平等の理念が先送りされ、今の中国の高度格差社会につながりました。これは教育の分野では顕著で、90年代までは、中国では「コネ」や「生まれ」つまり、先天的なもので人生が左右されていました。しかし、市場主義経済化された社会において成功するためには、自分の能力を高め、他人に対して優位に立たなくてはいけません。経済発展を支える「人材の育成」がこのような国家プロジェクトとマッチして、ゼロ年代からは定員拡大もあって大学進学率の爆発的に上昇しました。ただ進学率は高くなっても「重点大学」といわれるエリート校に進学しないとその先の就職はなかなか難しいという現実があります。

 日本では子供の教育につぎ込むお金はどれくらいでしょうか?中国ではかなり高いようです。一例として、大学生を子供に持つ世帯収入の全体における学費や生活費の割合が半分以上の家庭が全国平均で6割を越えています。その主な理由としては、地位を高め収入を増やせるといったものが多いです。中国の30-50代に対して行われた、「生活する上でもっとも重視しているものは何か」という世論調査でも、「子供の教育」がずっと常にトップとなっています。子供を持つ家庭の経済活動は教育を中心にまわっています。過去には学費が無料であったのですが、学費を徴収するようになり、近年では学費が高騰しており、ますます家族の子供にかける学費の高騰と共に期待とそのプレッシャーは相当なものとなっています。

 中国のネット社会の若者が日本のアニメを見てあこがれるのは学生生活です。上記のような学生生活を送る10代の若者からすると、アニメに出てくる日本の「普通」の学生生活、例えば、放課後の部活動、学園祭、夏休みのアルバイト、恋愛・・・などなど、青春を謳歌する姿は憧れ以外の何物でもありません。中国の学校では、部活動や学園祭は日本ほど活発ではありませんので。

 日本では、学校や家庭など10代を取り巻く社会が教育中心の「学校化」したことに対して批判的な分析がなされるようになりました。宮台真司さんは、競争的な家でも地域でもないという尊厳の場を「第四空間」と名付けています。中国における「第四空間」は、ふた昔前までそれはネットカフェと呼ばれており、数年前までそれはスマートフォンでした。特定のインターネットコミュニティにおいて学校化された空間では決して価値を与えられないものを発信し、それに共感をもらうことができれば、そこに自己肯定感を得ることができます。SNSの「シェア」や「いいね」というのは具体的にどこがいいのか言及することなく相互に承認しあえる場となっております。

 中国の現在の社会において、構造的に第四空間を求めざるをえない若者たちを多数生み出してしまうことは事実であり、私の周りでも、尊厳の場や非日常をもとめてネットやリアルに集う中国の友人がたくさんいます。そういった第四空間への求心力と、教育を中心とした価値観は光と影のように一体です。一人っ子政策が見直された今、教育に対する情熱とそれが生み出す「落ちこぼれ」の人数はますます拡大していくでしょう。それとともにリアル社会とは別の自己を表現する場としてのネット空間の重要性はますます増していくことになると思います。また、そのネットへの接触時間も増大していくでしょう。ネット社会において、彼らが共感できるものや彼らがあこがれるものを知るには、日本の受験戦争世代の学生時代を思い出すことが一助と有るかもしれません。10代の時にできなかったことを大人になって実現したいと思う気持ちは日本人も中国人も違いはありませんので。

宮崎壮玄

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